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学問をささえる道具の変化

執筆:北嶺中・高等学校 教諭 紀國谷 和隆


三浦しをんの小説『舟を編む』の一節に、このような質問があります。

 「きみは、『右』を説明しろと言われたら、どうする?」

 「方向としての右」を、ことばでわかりやすく説明する問題です。わかりきったこと・誰でもわかっているようなことを改めて説明するというのは意外と難しいことに気がつくと思います。
では辞書には何と書いてあるのか確かめてみましょう。


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みぎ【右】①北へ向かって、東の方。左の正反対。みぎり。②(漢代、座席を右の方を上としたことから)二つのものを比較して勝れた方。③文書で、前行または前条。日葡辞書「ミギニマウシタゴトク」④右翼の略。――『広辞苑』(1955)


「(基準になる方角)にむかって○○側」という説明がなされています。辞書の歴史を明治時代にまでさかのぼっても、結局この説明の仕方がひとつのスタンダードとして定着してきたようです。ただ、他の出版社としては、同業他社の説明をそのままいただくわけにもいかないので、さまざまな工夫が見られます。


●箸を持つ手の方の側――『旺文社国語辞典』
→ (その派生のパターン)大部分の人が食事の時、箸を持つ側。――『大辞泉』
●日の出るほうへ向かって、南のほう。――『三省堂国語辞典』
●アナログ時計の1時~5時までの表示がある側。――『新明解国語辞典』
●人体を対称線に沿って二分したとき、心臓のない方。――『明鏡国語辞典』


 と、いろいろな説明がありますね。編集者はかなり苦労しているようです。
そんな辞書の世界に革命を起こしたのが、『岩波国語辞典』(1963)です。


●相対的な位置の一つ。この辞書を開いて読む時、偶数ページのある側をいう。


→ 作家の井上ひさしさんも絶賛していたといいます。

 しかし、この説明の仕方にも、最近ある問題が持ち上がっています。それは「世の中の変化」です。「電子辞書」が現れ、普及しつつあります。本校の生徒たちも、電子辞書を大変便利に使いこなしています。少なくとも電子辞書にはページの概念がありませんので、この「名訳」は通用しなくなってしまいました。

 学校では、今のところ紙の教科書やプリントを教材として使っていますが、オフィスではペーパーレスになってきています。ICT社会が生んだ便利な世の中で、紙の辞書や書籍は果たして生き残れるのでしょうか。

 「紙の辞書」は、ページをめくったときの「指に吸いつく感じ(「舟を編む」では「ぬめり感」と表現していました)」が心地よく、また、目当ての言葉の前後にある言葉も目に入るので、その分余計に利口になれるということを信じて使ってきました。辞書を「読んでいる」感覚というのは忘れたくありません。


最後に紹介したいのが、紙ではなく鉛筆の話ですが、昔の映画の主人公の台詞(せりふ)です。


寅さん「俺はこの鉛筆みるとな、おふくろのことを思い出してしまうんだよ。不器用だったからね、俺は。鉛筆も満足に削れなかった。夜おふくろが削ってくれたんだ。ちょうどこの辺に火鉢があってな。その前にきちーんとおふくろが座ってさ、白い手でスイスイスイスイ削ってくれるんだ。その削りカスが火鉢の中に入って、ぷーんといい香りがしてな。綺麗に削ってくれたその鉛筆で俺は落書きばっかりして、勉強ひとつもしなかった。でもこのくらい短くなるとな、その分だけ頭が良くなった気がしたもんだった。」

寅さん「ボールペンってのは便利でいいでしょう。だけど、味わいってものがない。」

甥の満男「そうですねえ」

寅さん「その点、鉛筆は握り心地が一番。な。木のあたたかさ、この六角形が指の間にきちんと収まる。ちょっとそこに書いてごらん。なんでもいいから。」

(映画「男はつらいよ」第47作/拝啓車寅次郎様)


 どうですか?鉛筆を使ってみたくなりませんか?シャープペンシルやボールペンには、それぞれに良さがありますが、鉛筆にも魅力があります。
 字を書くときに選ぶのは、鉛筆?シャープペンシル?
 ことばを調べるときに使うのは、紙の辞書?電子辞書?

身の回りの道具を見るだけでも世の中は変化し、多様化していくのを実感できます。君たちのカバンや筆箱の中身は、いわば商売道具です。ベストな選択で勉強に立ち向かってください。


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