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「心」を教える

執筆:北嶺中・高等学校 国語科教諭 村瀬洸平


元号が令和になってしばらく経ち、21世紀になってからと考えると、さらに長い年数が経っています。しかし、21世紀から来た「ドラえもん」はまだ誕生していません(ちなみに、現在のドラえもんは22世紀生まれということになっているそうですが、連載当初は21世紀生まれという設定でした)。


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なぜでしょう?最先端の研究というとAI(人工知能)のイメージがありますが、ドラえもんと現代のAIでは何が違うのでしょうか。ドラえもんは目まぐるしく変わる状況に対して自分で判断を下すことができます。一方で現代のAIは事前にプログラムした仕事を効率よくこなしたり、たくさんのパターンの中から人間が見つけられない特徴を読み取ったりすることには長けていますが、あらかじめ想定されていない、つまり、プログラムされていない状況には対応できません。なかなか人間と同じようには考えてくれないわけです。そして、この問題を乗り越えるために、言語学という学問が大きく活躍してくれることがわかっています。AIと言語学は直感的に全く違うものに思えますが、実は密接な関わりを持っているということについて、今回はお話ししようと思います。そこで、今回は言語学の中でもAI分野でスポットを浴びている「認識」という言葉について一段深い理解をしてみます。

認識と言われてもピンとくる人は少ないと思います。認識とは「物事をはっきりと見分ける心の動き」を指す言葉です。これを機械に対してどのようにさせるか、という点が非常に悩ましいのです。機械に心があるのか無いのか、という話ではありません。もっと具体的な話です。例えば、ドラえもん(仮)に対して、「ベッド」を認識できるようにしましょう。ベッドは辞書には「寝台の一種。寝台支持台」と説明されていますが、これをロボットに教えても「これがベッドか!」と認識してくれません。私たちには簡単にできるのに……。どうしてロボットにはできないのでしょうか?そのポイントをここでは2点に絞って紹介します。

1つ目は、どこからどこまでがベッドなのかがわからないことです。空中に浮かんでいるベッドでもない限り、必ず床と接している部分があるはずです。私達人間の場合は、無意識のうちにその部分に注目して「床」と「ベッド」を区切って見ているからこそ「ここからここまでがベッド」と認識できるのです。

勘の鋭い人なら気づくと思いますが、この理屈だと、何かを見分けるためにはそれ以外のものも理解する必要があるということになります。ベッドを理解するためには床と見分ける必要があって、そのために床を理解するには床と接しているあらゆるものと見分ける必要があって……。それら全てを教えなければものを「認識」できないとすると、途方もないですね。

 しかし、この課題をクリアしてもまだ問題が残ります。「ベッド」と「背が低くて細長いタンス」はどう見分けるのでしょう?形が似ているものを想像してみてください。取っ手があるかないかで考えても、収納スペースつきのベッドは世の中にたくさんあります。実際私達はベッドを見て「背が低くて細長いタンスに布団をかけて寝ている」という認識をしません。明らかにベッドはベッドであり、タンスはタンスだと思って生活しています。つまり、それぞれを別のものだと認識しています。では、その違いはどこにあるのでしょう?

 それが2つ目のポイント、何のために使うのかです。言うまでもなくベッドは寝るために使います。だとすると、ベニヤ板だろうとダンボールだろうと、寝るために使う台ならばそれは「ベッド」なのです。

 そして、寝るための台として何を使うかは人それぞれであり、状況によっても違うはずです。通常の暮らしの中なら、家具屋さんに置いてある「ベッド」を想像して特定できそうですが、避難が必要で、被災者が学校の体育館で寝泊まりをしている様子をニュース等で見たことがあると思います。その際、ダンボールが簡易の「ベッド」として紹介されることもあります。そうなると、単に形状の違いや素材の違いで物を認識することは難しいということになりますね。

 以上の内容を乗り越えて初めて私達は「ベッド」を「ベッド」として認識しているのです。多くの家庭にある「ベッド」ですらこの調子なのだから、「雑誌」と「書籍」の違いを考えたり、それぞれ顔も性格も違う「人間」を教えるために「人間」とは何なのかを考えたり、形すら存在しない「学問」のようなものを教えるために「学問」とは何なのかを考えたり。こういったことがどれだけ大変なことか想像できると思います。実際、AIの研究を行うような、いわゆる理系の学者がこの認識の問題を解決するために、認識の仕組みを研究する文系の学問へ研究分野を変えてしまうことすらあるそうです。

 ここまでを見てきて、人間の心とは普段あまり自覚されないものだけに、よくわからないという印象を持ったかもしれません。しかし、だからこそ研究をしなければならないのです。そして、分かったことが他の様々な研究に活用されていくのです。人間が皆もっている心の働きの問題が、思いもよらない分野と結びつく面白さを少しでも理解してもらえればと思います。


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