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永正十三年のなぞなぞブック

執筆:北嶺中・高等学校 国語科 石山 昌周


令和の時代もクイズ番組は人気ですね。みなさんの中にも、毎週のクイズ番組を楽しみにしているという方がいらっしゃるのではないでしょうか。

さて、クイズを日本語で言うとなぞなぞですが、本稿では、昔の人たちが楽しんだなぞなぞ、古典のなぞなぞを少し紹介したいと思います。永正十三(1516)年に筆写されたという「なそたて」(天理図書館蔵)から幾つか取り上げていきます。

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原文は昔の仮名遣いのひらがなと簡単な漢字を用い、「問いとなる語句・答えとなる語句」が列挙される形となっています。なぜその答えになるのかの説明書きはありません。ですので、今回は元々の形を示してから、「…ってなあに。答え~」のような形で問答を示し、問いと答えがどうつながるかを考えていきたいと思います。問いと答えには必要に応じて、現代語での読み方を示しておきます。

では、さっそく第1問。


第1問 ろはにほへと いはなし
  →「ろはにほへと」ってなあに。答え「いはなし(いわなし)」


「ろはにほへと」の文字の並びから、何か気づきませんか。そう、いろは歌の冒頭「いろはにほへと」から「い」が欠けているのですね。そうすると「い」がないというところから「いはなし」。「は」を「わ」と読んで「いわなし」となります。これに「岩梨」と漢字をあてたものが答えとして想定されていたようです。山地に生息する岩梨は、岩場に生え、梨のような味のする実をつけるそうですよ。


第2問 やぶれかちやう かいる
  →「やぶれかちやう(やぶれかちょう)」ってなあんだ。 答え「かいる」


「やぶれかちゃう」、漢字を当てると「破れ蚊帳」となります。蚊帳は蚊を避けるためのに寝床を覆う、いわゆる「かや」のこと。どこかが破れていると、蚊が入ってしまいます。古語では「入る」を「いる」と読みますので、「蚊入る(かいる)」となります。  次に「かいる」について。室町時代以降の話し言葉では、「蛙」を「かいる」とする例が多く見られます。ですので、答えとしては「蛙」を想定していたのでしょうね。


第3問 あきのたはつゆおもげなるけしきかな ほたる
  →「秋の田んぼは露が重たげな景色だなあ」って何のこと。 答え「ほたる」


 「秋の田」一面に広がるものはもちろん「稲」。「つゆおもげなる」、「露も重たげに見える」という問いかけが、「ほたる(蛍)」とどうつながるのでしょう。
問いは「露のついた稲穂が垂れている」様子を示していますが、これを古語では「穂垂る」と表現します。これは単純な駄洒落のなぞなぞですね。


第4問 ほうづき まさかり
  →「ほうづき(ほおずき)」ってなあに。  答え「まさかり」


果実を抜いた皮を口に含んでならして遊ぶ、「ほおずき」。そして、金太郎さんが担いでいる「まさかり」。この二つの語がどのようにつながるのでしょうか。なぞ・答えともに、二語に分けられないか、音に注目して、考えてみましょう。「ほう」に「法」、「づき」に「尽き」、「ま」に「魔」、「さかり」に「盛り」の字をそれぞれ当てると二つの語ずつに分割できそうです。「法」、つまり守るべき教えや戒律が「尽き」てしまう(守られなくなってしまう)と「魔」、煩悩が盛んになる、つまり悪事が隆盛するというわけです。こうした問答が想定されていたようですが、なんだか、物騒な感じがしますね。

では、最後の問題です。


第5問 ははには二たびあひたれどもちちには一どもあはず くちびる
  →「お母さんには二回あうけれど、お父さんには一度もあわない」もの、なあんだ。    答え「くちびる」


「母には二回あうけれど、父には一度もあわないものなあに」と言われて、「唇」と即答できる方はそう多くないことでしょう。これは私が小学一、二年生の時に読んだなぞなぞの本にも掲載されていました。答えも「くちびる」でしたが、その説明も載っておらず、よくわからないなぞだなと首をひねっていた覚えがあります。それもそのはずで、この問いは現代の日本人にはほぼ解けないなぞとなっています。解くためには、日本語の発音の歴史を考える必要があります。

室町時代には、ハ行音を、「ハヒフヘホ」という音ではなく、「ファフィ…」のように発音していたようです。同時代に刊行されたキリシタン版の『平家物語』の表紙には「FEIQEMONOGATARI」と印刷されており、「ヘイケ」ではなく「フェイケ」のように発音されていたことがわかります。

 さて、こうした知識を踏まえて考えると、「解けない」理由が明らかになってきます。現在は「父」「母」どちらの語も唇を合わせることなく発音しますが、室町時代は「母」の発音に際して「ファファ」と唇を合わせて発音していました。したがって、当時は「母には二度あうけれど父には一度もあわないものはなあに」、答え「唇」というなぞなぞが成立していたけれど、現在では成立しない。これが「解けない」ということです。
ちなみに、「母」を「ばば婆」、「父」を「じじ爺󠄂」に置き換えると、現代の私たちにも通じるなぞなぞとなります。



いかがでしたか。この「なそたて」、なぞと答えのひらがなは歴史的仮名遣いで表記されているので、その学習につながるかもしれません。また、日本語の発音の歴史を考える手がかりとなるものもありました。なぞなぞと言ってもなかなか奥が深いですね。

中学に進学すると、国語の分野で古典も扱っていきます。紹介したなぞはわずかでしたが、今回のなぞなぞ談義を通して古典に興味を持ち、積極的に学んでみようというきっかけになれば幸いです。


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