白陵中学校中学部長・広報部長 中村大吾先生と浜学園経営企画室渉外担当 山田
兵庫の旧制姫路高等学校を継承し、姫路城にちなむ名前の学校を創設
―本日はよろしくお願いいたします。はじめに、御校の名前の由来と教育理念・精神について教えてください。
本校は、旧制姫路高等学校の精神を受け継いだ学校です。旧制高等学校とは、明治政府が西洋に追いつくために考えたエリート養成教育機関で、イギリスのパブリックスクール、ドイツのギムナジウム、フランスのリセーを模範とし、各都道府県に一つ作られた学校です。特に多かったのが、イギリスのパブリックスクールを模範としたもので、旧制姫路高等学校もそんな学校の中の一つであり、1923年に姫路に作られました。しかし、戦後、旧制高等学校はGHQの方針で消滅してしまいました。そこで、旧制高等学校の教育を継承・発展できないかと、旧制姫路高等学校の卒業生である白陵初代理事長の三木省吾が1963年に高砂市に学校を創設し、今年で57年目を迎えたのがこの白陵です。三木省吾は、旧制姫路高等学校の最後の卒業生であり、白陵の二代目の校長となった人物でもあります。
また、姫路城の横に位置していた旧制姫路高等学校は、全寮制で、そこに「白陵」という学生から最も人気の寮がありました。本校は、そこから名前と校章をいただいたわけです。ちなみに、「白陵」という名は、「丘(陵)の上に立つ白い建物」つまり「姫路城(白鷺城)」を表しています。また、校章の下にある鳥は白鷺を表しています。
白陵の手本・世界最先端のイギリス・ロンドンへ
―御校では修学旅行でイギリス・ロンドンに行くとお聞きしました。それには何かこだわりはあるのでしょうか。
はい。修学旅行の行き先は、本校のこだわり中のこだわりです。前述しましたように、本校の前身である旧制高等学校は、イギリスのパブリックスクールを手本としたエリート養成教育機関でした。修学旅行の行き先をこだわる理由はまさにそこにあります。
ロンドンでは、オックスフォード大学や、ケンブリッジ大学、シェイクスピアの故郷ストラットフォード=アポン=エイヴォンなどの学問・文学で著名な場所が多くあります。また、カンタベリー、ビッグベンといった歴史的建造物や世界文化遺産である不思議なストーンヘンジ、そしてウィンザー城とバッキンガム宮殿など、見聞を深め感動の世界に浸れる場所もあります。
また、King of Museum である大英博物館と自然史博物館は一日中滞在できるほどの規模です。テレビや教科書で見たことのあるものが、ケースに収納されることもなく、むきだしの状態で30センチほど前にあります。そこに生徒たちは大きな感動を覚えるようです。そんな彼らの横で写生を行うイギリスの高校生とすぐに仲良くなるのも本校の生徒のいいところです。お互いのネクタイを交換して帰国した生徒もいました。
世界情勢の不安定から、4年間は苦渋の決断で行き先を北海道としていました。他の国にしなかったのは、「海外に行くならイギリス・ロンドン」という強い思いがあったからです。世界情勢を鑑みて、今年度からロンドンへの修学旅行を再開しようと考えています。
イギリス・ロンドンは、学問・歴史・科学のどれをとっても世界遺産があり、世界の最先端でもあります。そのため本校は修学旅行の行き先としてロンドンにこだわるのです。
学校を見守る、たくさんの自然と2人の神様
―白陵中学校・高等学校の学校環境について教えてください。
高砂市のJR曽根駅から約1.2kmの山の懐にある本校の校門をくぐると、学校創立時に植えられた欅並木約100本が出迎えてくれます。寿命は800年といわれているので、これからの700年の白陵の歴史を見続けてくれることでしょう。ちなみに、欅の花言葉は「幸運・長寿」です。敷地内は自然がいっぱいでカブトムシ・クワガタはもとより、山の泉には絶滅危惧種に指定されている霞サンショウウオが生息しています。他にもイノシシやキジ、キツネ、タヌキなど野生の動物が時々出現します。四季折々の花が咲き乱れ、様々な生物と出会える本校は、まさに生物部のフィールドにぴったりです。そんな生物部には、車にひかれてしまった動物が近所の人によって運び込まれることもあります。それらを研究に用いたりはく製に用いたりして、より深い活動を行っています。
また、近隣には、鹿嶋神社(一願成就「学問の神」)や鹿島神社(武運の神)があります。
約10年ごとの改革
―設立以来の御校の流れを教えてください。
本校は設立57年目で、現在の中学1年生が60期生です。彼らが高校1年生になるときに60年目を迎えます。おおよそ10年刻みに改革を行っており、今の時代に白陵がどうあるべきかを教職員全体で考え直すようにしています。1989年に東大合格者数30名を達成しました。しかし、東大に入ることだけが目的になっていた教育スタイルがあったのも事実でした。その後のびのびと学ぶ楽しさを得られるようにと、70分授業を60分授業に変更しました。つづいて、頭髪の自由化、ブレザー型制服の採用、中学校の共学化、イギリスへの修学旅行と改革を行いました。
2008年には新校舎の建て替えが行われ、2015年には、音楽・美術・書道・技術・調理・被服の各教室を備えた4階建ての技芸棟が設立されました。
2019年の入試では、東京大学・京都大学・大阪大学・神戸大学・国公立大学医学部に11年連続100名以上が合格しました。ちなみにこの年には117名が各大学に合格しています。
そして来年2020年には、中学校の新制服採用、高校では制服着用を求めないという新たな取り組みを行います。中学校では規律・身だしなみ・フォーマルという考えを身につけさせることを目的とします。高校では、「どのような服を着て一日を生きていくか」ということも含めて「自分を作っていく」ということを目的とします。個性を尊重し、自立を後押しするために、もう一歩進んだ形をとることを決めました。
孔子の言葉をもとにした教育方針
―御校の教育方針についてお聞かせください。
本校の教育方針は、「英才の育成=研究と訓練、独立不羈(どくりつふき)、正明闊達(せいめいかったつ)」です。「これを知るものはこれを好むものに如かず、これを好むものはこれを楽しむものに如かず」、つまり、「何かを知っている人が光るのではない、そこに不思議を感じ、その人を尊敬し、好きになり、楽しむようになって自分が磨かれ光ってくる、明るい自由闊達な人間になっていく。ここに自立への道がある。」と言い換えることができるのではないでしょうか。それぞれの意味について説明します。
「研究と訓練」は、「学んで思わざれば罔(くら)し、思って学ざれば殆(あやう)し」という孔子の言葉をもととしています。教わるばかりで自ら思惑しなければ独創がありませんし、自分で考察するだけで教えを仰ぐことをしなければ大きな落とし穴にはまってしまいます。朝に学び、夕べに考えるように、研究とは自らつとめて思索し探求することです。そして、訓練とは先人の偉業を繰り返し学習することです。簡単に言うと、「勉強しなさい、そしてそれを繰り返し練習しなさい」という当たり前のことに言い換えられます。
「独立不羈」とは、研究と訓練を経て生まれる境地のことを指し、優れた才能や学識によって培われた信念に基づいて自らの存在理由を明らかにし、その尊厳を保つことです。「与(とも)に学ぶも、未だ与に道を適(ゆ)くべからず。与に道を適くべきも、未だ与に立つべからず。与に立つべきも未だ与に権(はか)るべからず。」これも孔子の言葉です。同じ場所で勉強しても同じ道へ一緒に進めるとは限らないし、同じ道を一緒に進んでも一緒に仕事ができるとは限らない。一緒に仕事ができても、いざというとき運命を共にするとは限らないという意味です。人の行為の直接の動機となるものは、その理念(何を最高とするかについてのその人の考え)ではなく、その人のおかれている利害状況です。しかし、その行為のある転換の時期において、自らの推進の方向を快言するのは、理念によって作られた世界像です。この理念を形成し、維持するのが独立不羈の精神であるということです。生徒に伝えるときには、「研究と訓練をなしえた者に与えられる自由」であると説明します。「不羈」とは手綱がないことを意味します。研究と訓練によって独立し、情緒安定や常識、知識によって支えられた自由な状態が「独立不羈」が意味することです。
「正明闊達」とは、文字通り、こだわりをもたず広く人の意見を取り入れ、大道を歩むことを表しています。「異端を攻(おさ)むるは、これ害なるのみ」これもまた孔子の言葉で、新しい流行の真似をするのは害になるばかりだという意味です。根本の大きな道は永く不変であり、それからはみ出したものは時とともに浮沈するということです。自分だけのことではなく、全体を見て、自分の自由をみんなに分かち合うことができるような人になりなさいと指導しています。
英知の継承・自分磨き・役立つ人間になるために幅広く学ぶ
―御校の教育カリキュラムはどのようなものなのでしょうか。また、その特徴についても教えてください。
本校では勉強の目的を、「英知の継承と自分を磨くこと、多くの人に役立つ人間になること」と捉え、全教科に取り組めるカリキュラムを作成しています。授業時間は月曜日に50分×7時間、火曜日から金曜日は60分×6時間、土曜日に60分×4時間となっています。また、夏休み・冬休み・春休みにも授業を行うことで、公立の学校の1.5倍のコマ数を確保しています。教員は普通のスピードで話し、内容を反芻します。授業のスピードは普通にもかかわらず、未履修がない状態で大学受験に臨めるようにしたい。そのために1.5倍のコマ数が必要なのです。また、コマ数が多いことで生徒にじっくり考えさせることもできます。例えば中学生で因数分解を学習する際、あえて高校生で学習する因数分解も提示して考えさせることがあります。生徒たちは自分たちが学習したばかりの知識を使って、目の前にある因数分解を考えます。今学習している内容の先に何があるのか、それを感じられる時間となっています。また、高校3年生では週に1回、教員が大学で学んだ内容について生徒に話す時間が設けられています。例えば、数学の教員が、微分・積分の先にある研究について話します。文系の先生は文系の内容について話します。「君たちが今学んでいることの先にはこのような学問がある」というモデルを示すことで、生徒たちのモチベーションにもつながっているようです。これも授業コマ数が多いからこそできることです。次に、各科目の特徴について説明します。
国語では、中学1年生・中学2年生において、週4時間ある授業のうち、2時間を「表現」とし、手紙や詩、紹介文、写生文、ディベートなどの様々な文章を、読んだり書いたり話したりする機会を設けています。そして中学3年生から、本格的に古典の学習を始めます。数学では、常に様々な解法アプローチを大切にし、記述中心型の授業を展開しています。社会では、見学や研究、発表を多く取り入れ、理科では実験・観察を多く取り入れています。英語では、ALTとのペアーティーチングを多く取り入れ、学年末に学年全体でスピーチコンテストを行っています。中学2年生で英検準2級、中学3年生で英検2級の取得が目標です。GTECも中3から受験しています。体育では、高校2年生まで柔道が必修で、卒業時に希望者には講道館認定の初段が与えられます。
また、大学受験のためだけの勉強ではなく、高校段階で幅広く学ぶことも必要であると考えています。そのため、高校1年生では物理・化学・生物いずれも必修となっており、社会は必修科目の世界史と、日本史または地理を選択することとなっています。高校2年生で文系と理系に分かれてクラス編成が行われますが、文理にかかわらず、地歴科目の他に、倫理と政治経済はいずれも必修としています。文系でも数学は数Ⅲの前半まで学習し、全生徒が高校3年生まで古典を学びます。さらに、全員が幅広い知識や深い洞察力が求められるセンター試験を受験することになっています。
大学進学に必要な科目のみ学ぶのではなく、幅広く学んで「英知の継承と自分を磨くこと、多くの人に役立つ人間になること」を達成してほしいと願っています。