立命館高等学校 学校長 竹中宏文先生と浜学園経営企画室渉外担当 山田
大きいオープンスペース、竹林と船をイメージした施設
―まずは、充実した施設面について簡単にお話しいただけますか。
本校の施設面の特長をひとことで言うと、オープンスペースが大きい点です。コンピュータが自由に使えるだけでなく、200枚のパネルを立ててポスターセッションができる場所もあり、広々としています。デザイン面では、長岡京へ移転してくるときに生徒会の生徒たちから「何かしたい」という声があったため、NPO法人「竹の学校」さんにご相談して間伐材の竹を一緒に切りに行き、それを建材として利用しました。窓の日よけにも竹の意匠が凝らされており、西日が差すと竹林の中にいるような気分になるそうです。ホールの部分は大海原へ出ていく船をイメージしていて「こんな時代だからこそ、海へ漕ぎ出そう」というメッセージを表しています。
「生徒の自主・自律」を重視
―御校の教育方針についてお伺いできますか。
本校の教育方針の一番の特徴は「生徒の自主・自律」です。たとえば高校の文化祭は生徒会が主導して開催し、生徒たちが全て企画・運営します。また、高校は制服がないのですが、「式典のときはきちんとした格好で来る」など生徒自らが意識しているようです。そのおかげか、制服がなくてもあまりだらしない格好の生徒はいません。高校2年生の修学旅行でも、コースにもよりますが、テーマや行き先から企画・運営・業者との折衝まですべて生徒が行っています。 流れとしては、生徒たちがいろいろなアイディアをまず、教員相手にプレゼンします。安全対策についても確認し、教員に認められればそのコースに行けますが、当然認められない場合もあります。ときには泣きながら練り直し、生徒相手にもプレゼンを繰り返して、最終的な形を作っていくわけです。
今年度のコースはパラオ、ドイツ、広島・山口、無人島コースがありました。この無人島コースはユニークで、テーマは「スマホ断ち」。生徒が瀬戸内海の島を見つけてきて、スマホなしのサバイバル生活をしてみようと。もちろん、海での遊泳は全面的に禁止するなど安全面には配慮させましたが、事前研修は火起こしからという本格的なコースでした。 当日は雨も降り、風が吹いて大変だったようですが、生徒の満足感は高かったようでした。
他にも、パラオコースでは大統領とお話しさせていただく機会があり、文化発表の態度が印象的だったようで、大統領ご自身のSNSに動画を載せていただきました。特に礼儀に関しては驚かれたそうです。
AA研修で自律心を養う
―大変ユニークな試みですね。中学校についてはいかがですか。
中学校の修学旅行は生徒全員が2週間強、AA研修(オーストラリア・アデレード研修)に向かいます。一人につき一家庭制でホームステイを実施し、15、6のスタディセンターに分かれて学びます。AA研修については南オーストラリア州の教育省がバックアップしてくださっていて、学校でも英語漬け、家へ帰っても英語漬けという環境に身を置くことになります。AA研修は生徒の自律心を養うにあたって非常に効果的です。たとえば、向こうでは子どもにもそれぞれ家庭内の役割が与えられ、食事の準備や洗濯などを自分でやる必要があります。「大きな子ども」としてではなく、「小さな大人」として扱われるわけです。自分の家庭でお手伝いすらしない生徒も多いですから、帰国してから家族に感謝の気持ちを持つようになるようです。
語学に関しても、行きの飛行機では聞き取れなかったアナウンスが帰りの飛行機では聞き取れるようになったという声を聞きます。仮に英語が通じなかったとしても、その欲求不満がかえって勉強へのエネルギーにつながるわけです。研修後、高校へ進学すると海外からの高校生と交流する機会も多くなるので、実力を試してみようという意欲も湧きます。
進路に応じて選択できる各コース
―では次に、各コースの概要について教えていただけますか。
立命館中学・高等学校はいろいろな挑戦をしております。大きく分けると、一つ目が「小学校から高校までの12年間一貫教育」、二つ目が「国際化の取り組み」です。一つ目の12年間一貫教育については、小学校1年生から高校3年生までを4・4・4の3ステージに編成してカリキュラムを組んでおります。小1〜小4がファーストステージ、小5〜中2までがセカンドステージ、中3〜高3までがサードステージというわけです。一般的な6・3・3とは違い、中3の時点で将来の進路をしっかりと考えられるようになっています。
このステージの変わり目で各コースを選択できるようになっています。たとえば「MSコース」は立命館大学以外へ進学するコースですが、現在立命館大学には医学部がありませんので、医学部系を目指す生徒はこのコースを選ぶことになります。同じく東京大学・京都大学などいわゆる最難関校への進学者も輩出しています。 MSコース以外には「コアコース」があり、こちらは基本的に立命館大学への進学を目指すコースです。現在のところ、ほとんどが第一希望の学部に入学できています。人気の学部が集中した場合は高校3年間の総合成績で判断しますが、あまり競争になることはなく落ち着いて学ぶことができます。
さらに最近では、コアコースの生徒でありながら外の大学(公募制推薦、AO入試等)を受験する生徒も出てくるようになりました。12年間を通して多様な経験をしているため、面接でも物怖じせず「面接が楽しかったです!」と言う生徒もいます。大学のような高いレベルで自分たちの主張ができることを楽しいと感じられるようです。
比率としては、MSコースが2クラス、コアコースが7クラスです。そしてコアコースの中に、特に国際的な活動や語学に力を入れた「GJクラス」を設けています。立命館大学にも様々な学部がありますので、それぞれに応じた教育環境を提供しています。
二つ目の国際化についてですが、本校は「科学教育の国際化」に長年取り組んできました。詳しい内容はのちほどご紹介しますが、文科省のSGH(スーパー・グローバル・ハイスクール)、SSH(スーパー・サイエンス・ハイスクール)にも指定されており、充実した環境かと思います。
世界中の生徒が参加するSuper Science Fair
―国際化について、まずはSSH(スーパー・サイエンス・ハイスクール)の取り組みから教えてください。
文科省のSSHという制度は2002年度から始まったものですが、本校はその第1期から指定を受けています。もともと、学校内でも理系に特化した取り組みを行おうと計画していた時期でしたので、よい機会であると考えて手を挙げました。以降、4期連続で指定を受けることができています。これはかなり珍しいことで、全国には5000以上の高校がありますが、4期連続という学校は数えるほどしかありません。SSHの指定を受け続けられている大きな理由のひとつは、科学教育の国際化に取り組んできたことです。指定を受けた翌年からは毎年秋にSuper Science Fair(スーパー・サイエンス・フェア)という世界中から高校生を招いて英語で研究発表を行うイベントを開催しています。
また、研究発表を行うだけでなく、交流の機会として多国籍でチームを作って研究者や担当教員の出すテーマに取り組んでもらっています。前回はドローンを飛ばした会場もありました。満足感も高く、自己肯定感が養われるようです。
2013年までは名称をRits Super Science Fair(リッツ・スーパー・サイエンス・フェア)としていたのですが、人材育成重点枠(コアSSH)に指定されたのを期に、文科省と相談してJapan Super Science Fair(ジャパン・スーパー・サイエンス・フェア)と改めました。
2003年当時には立命館、早稲田本庄、オーストラリアのAustralian Science and Mathematics Schoolの3校でスタートしたイベントですが、少しずつ評判を呼び、昨年度には24カ国地域から33校が参加してくださいました。アフリカ・ケニアからもBrookhouse Schoolが来てくださり、五大陸制覇ということになります。
スーパー・サイエンス・フェアに来てくれるのは、各国のトップレベルの理数教育重点校です。たとえばシンガポールからはNUS High School of Mathematics and Science、韓国からはKorea Science Academy of KAISTといった学校が来てくださっています。
こうした学校は各国の科学技術戦略の一環として位置づけられていて、経産省にあたるような省庁が直轄で運営していることも多く、生徒は国を背負っているという自覚を強く持っています。本校の生徒もかなり刺激を受けるようです。GJコースの生徒などは「海外の友達を100人以上作るのが目標」と言っており、実際に100人近い友達とSNSなどで交流を続けるケースもあります。
貧困と災害をテーマに活動
―素晴らしいイベントですね。では、SGH(スーパー・グローバル・ハイスクール)の取り組みについてはいかがでしょうか。
SGHにつきましては、これも初年度(2014年度)から指定を受けています。SSHと同じく、SGHという制度が始まる前から課題研究を高2・高3全員にさせようという計画がありました。スーパー・サイエンス・フェアで課題研究がもたらす生徒の成長を実感していたためです。文系の生徒、国際系の生徒については課題研究の論文を英語で書かせようという構想をあらかじめ持っていたため、SGHに手を挙げたところ、立命館宇治と同時に指定を受けることができました。
本校が取り組んでいるテーマは「貧困の撲滅と災害の防止」です。世界の課題を見渡したとき、たとえば宗教問題や紛争などは大きなテーマになりますが、そういった場所に高校生を連れていくのは教育機関としては難しい面があります。生徒を預かっている以上、学校としては100%安全なところに連れていかなければならないという制約がありました。
そんなとき、大学のある先生から「現在は貧困と災害の連鎖が問題になっている」と伺いました。貧困を貧困だけで考えるのではなく、災害とのつながりで捉えていくことが重要視されてきたのだそうです。
実際、2013年には台風がフィリピンを襲い、本校とつながりのある学校も屋根を飛ばされる被害に遭われました。そこに訪れることで、何か学ぶところがあるのではないか。そう考え、フィリピン研修を中心にSGHとしての活動を行ってきました。
フィリピン研修は生徒にとって、相当ショックなようです。マニラ郊外に行くのですが、いくつもゴミの山があり、そこから物を拾って生計を立てられている方が暮らしています。ゴミ山が崩れて亡くなってしまうこともある、危険な場所です。
そこで暮らしている方に生徒がインタビューさせていただいたところ、「もともと住んでいた島が災害に見舞われ、こちらに来ればなんとかなると思ったがどうにも仕事が見つからない。そこで、ゴミの山で暮らしているのだ。」という話でした。生徒と同年代の子が「3日間、食べるものがないこともある」「ゴミの山からパンを拾って食べることもある」と言います。けれども「家族全員が揃っているから幸せだ」と。こうした内容を、全校集会でも発表するわけです。
生徒は世界へ出て、全く違った暮らし・価値観に触れることで自分に足りないものを強く感じるようです。本校ではその結果を研究発表だけで終わらせず、ディスカッションをしアクションプランを立てるところまで取り組んでいます。
今年度はFood Security(食の安全)がテーマです。たとえば、本校の所在地である長岡京市では「子ども食堂(家庭の事情で、一人で食事をとっている子ども、食事が食べられない子どものために無償・安価で食事の場を提供する活動)」が行われていますので、本校の生徒も関わらせていただくというようなことをしています。
社会に貢献できるグローバルリーダー
―最後に、立命館の育てたい生徒像についてお伺いできますか。
本校が長岡京への移転も含めてテーマにしていたのは、「新たな価値を創造し、社会に貢献できるグローバルリーダーの育成」です。これからの時代「貢献」というキーワードはますます大事になってきます。未来に備えて力を蓄え、ちょっとしたことでもいいので変革を自分たちで作っていこうと動いてほしい。自分が何かを思いついてやろうというときに、相手を巻き込む力を持ってほしい。そのためには、主体性、コミュニケーション力、協働できる力が不可欠です。
コミュニケーション力を育てるには練習の場が必要です。ですから本校では、クラブ活動の練習メニューも生徒が決めることが多くなっています。ときには意見がぶつかることもありますが、ぶつかりながらも自分たちの目指す方向になんとか進んでいく。こうしたことは大人になってから練習する機会がなかなかありません。中学校ではたくさん失敗してもいいので、ぶつかることの大切さを学んで欲しいと考えています。
―どうもありがとうございました。
⇒立命館中学校・高等学校HP 取材日:2018年9月21日