龍谷大学付属平安中学校・高等学校 校長補佐 平井正朗様と浜学園経営企画室渉外担当 山田
不安な時代だからこそ求められる、「共生(ともいき)」の心
―本日はよろしくお願いいたします。まずは、龍谷平安さんの教育方針についてお話しいただけますでしょうか。
一言で言えば、「心の教育を通じて、社会に通用する人間を作る」ということになるでしょうか。龍谷大学付属平安中学校・高等学校の建学の精神は、「浄土真宗の精神」。加えて、日常の心得として「三つの大切」を掲げています。その中身は、「ことばを大切に」「じかんを大切に」「いのちを大切に」というものです。
人生は明確な正解がない難問ばかりです。自ら問いを立て、自ら学ぶことはやがて人生の岐路に立ったときに“最適解、納得解”を出す力になることは間違いありません。困難を解決へ向けるエネルギーこそ、目指す教育の原型です。そのためには利己的な考えを捨て、新しい目線で世界を見て、まだ答えがない問いを自らが作れるようになることが不可欠です。本校では人間力と学力を育成しつつ、一人ひとりの夢の実現に向かって“チーム学校”で取り組んでいます。
難関大学への入学を目指す、進学校化したコース設計
―龍谷平安さんのコースコンセプトについても詳しくお聞きしたいのですが。
本校は龍谷大学の付属校ではありますが、中学校は、国公立大学・早慶・上位私立大学などを目指せる6ヶ年一貫のコースからなっています。高校に進学した生徒は全員が「一貫選抜コース」になり、国公立大や有名私大への現役合格を目標にしています。
知識の確実な定着を目指す「ドラゴンゼミJr.」「ステップアップテスト(SUP)」
―進学校化に向けて着々と歩を進めていらっしゃるのですね。具体的には、どのような取り組みを行っていらっしゃるのでしょうか。
進学校化を進めていくにあたって、まず何よりも大事なのは「十分な時間の確保」であると考えました。そこで、週に3日は7・8時間目の授業を設け、英・国・数の補習授業(ドラゴンゼミJr.)を行なっています。併せて、夏期講習、合宿、冬期講習、春期合宿なども行い、学習時間を確保しています。
生徒の成績を上げるには、できるだけ多くの問題に触れ、類題にあたり、解法をマスターする機会を増やすことが大切です。そのために本校では、中間テスト・期末テストを行わず、前後期の中でテストは月に1度行うことにしています(ステップアップテスト(SUP))。
テストを月に1度行うことで、4月に学んだ内容を5月に確認、ということを毎月行い、さらに前期の学習内容を8月の夏期講習の後に確認し、9月には到達度確認テストで発展問題まで含めて確認する……というスパイラル方式になりますから、確実に知識を定着させることができます。
自然と生徒の平均点も上がってきますし、教師の側も、生徒が間違えやすい問題を分析すること(誤答分析)ができますから、授業内容の改善がしやすくなっています。
私立学校の課題、「成績の二極化」対策
―採用されている教科書も、難度の高いものだそうですね。
採用教科書については、一般的な学校で使われる検定教科書ではなく、たとえば英語では『ニュートレジャー』(Z会)を採用しています。中高一貫校用の教科書で、難度も高くなっています。難易度の高いテキストを使用すると、到達度の二極化が起きることはどの学校でも課題のはずです。そこで、テストの回数を増やして、範囲を狭くして、全体の習熟度を高めていくやり方をとっています。
私立学校がよく取り入れる「先取り学習」は行っていますが、「授業→宿題→確認」のPDCAサイクルを徹底して、確実に学力をつけることを第一目標にしています。
日常生活にアクティブ・ラーニングを散りばめていく
―学習指導要領が変わることが話題になっていますが、それに向けて、御校ではどのような対応を行っていらっしゃるのでしょうか。
次期の学習指導要領の中心になるのは、自主的で、対話的で、深い学びです。本校では次期学習指導要領への対応として、中1から高3までに学ぶべき内容を整序し直して、新たなカリキュラムを展開しています。学習指導要領が変わることにより、これまでは1教科の中で完結していた問題が、教科横断型に変わっていきます。問題に取り組む際も、より応用力が求められるようになる。そこで、たとえば英語については、中1の段階からアクティブ・ラーニングができる機会を各所に散りばめています。
代表的なもので言えば、生徒が劇やディベートを行う「イングリッシュ・デー(English Day)」があります。ディベートを行うには英語力を高めるだけでなく、背景知識を鍛えるための訓練も必要になってきます。様々な視点からどのような意見が出るのかをあらかじめ予想しておくなど、生徒同士の交流も生まれますから、これもひとつのアクティブ・ラーニングと言えるのではないでしょうか。
英語成績の向上にもつながる、生徒同士の交流
―「イングリッシュ・デー(English Day)」について、より詳しくお伺いできますか。
昨今、公立の学校では「英語で英語を教える」取り組みが注目されていますが、私学ではすでに20年以上前からこのような取り組みが行われてきました。本校の「イングリッシュ・デー」もその一例で、英語で英語を学ぶためのイベントになります。イベントは全員参加型で、2月の本番に向け、夏休み(8月)ごろから徐々に準備を進めていきます。中1は歌や劇、中2はスピーチ、中3はディベートなど、学年に応じて内容は変わります。
英語以外にも言えることですが、一人で学ぶだけであれば、平常授業でもカバーすることが可能です。しかし、議論を深め、考えを深めていくためには、チームでの活動がやはり必要になってくるでしょう。実際に、龍谷平安の生徒たちの英語力はだんだんと向上してきています。これはやはり、広義のアクティブ・ラーニングの結果なのではないかと感じています。
同世代からの言葉だからこそ、ストンと子供の腑に落ちる
―龍谷平安さんといえば、クラブ活動の面でも定評があり、まさに「文武両道」の学校でいらっしゃいますね。クラブ活動へ参加することの意義とは何でしょうか。
龍谷平安に入学してくれた生徒たちには、クラブ活動への入部をすすめています。現状、8割程度の生徒が何らかのクラブに所属している状況です。難関国公立大学へ入学し、進学実績のトップランナーとなってくれた卒業生も、クラブ活動に熱心に取り組んでくれていました。彼らに話を聞いてみると、クラブ活動に参加することによって、自分自身の体内時計を作り、自律した学習をする習慣がつけられたと語ってくれました。学習の面についても、クラブ活動は良い効果をもたらしてくれているようです。
龍谷平安は創立から141年目の学校であり、古き良き伝統があります。その中でも特に魅力的なのは、生徒同士の縦のつながりです。先輩が後輩の面倒を見る気風が残っており、たとえば勉強習慣については、先輩が後輩に体内時計の作り方を教えていたり、壁にぶち当たったときに乗り越える方法を教えていたりするようです。
中学生くらいの年齢の子供にとっては、「当たり前のことを当たり前にこなす」というのが意外と難しいものです。生活に関するアドバイスは、先生や親の目線、つまり大人の目線から伝えるより、同年代の先輩から言われる方がストンと腑に落ちるものです。そういった交流を通して、先輩の側も、後輩の側も成長することができ、教育効果が高い。クラブ活動の意義は、そこにあるのではないでしょうか。
受験生の心をつかむ、パワフルでユニークな部活動
―注目のクラブ活動についてお話しいただけますでしょうか。
我が校はクラブ活動がとても盛んで、どの部もめざましい結果を残してくれています。たとえば昨年、中学一年生でありながらフェンシングの全国大会へ出場した生徒がいたことは記憶に新しいのですが、運動系のクラブで言えば、チアダンス部が世界大会で5位に入賞いたしました。世界という大きなステージに進出できたのは、やはり快挙と言うほかないでしょう。文科系のクラブで言えば、ネイチャー部や考古学部の存在はユニークです。 ネイチャー部は博物館、植物園、水族館と連携しながら活動しているクラブになりますが、科学助成金等も取得し、部員数もどんどん増えてきています。
同じく考古学クラブに関しても助成金を取得し、2016年度は京都市考古資料館、京都市埋蔵文化財研究所との共同で、クラブが長年にわたって発掘してきた土器等を展示、発表する「HEIAN、掘る」展を開催するなど、学術機関とも連携しながら、本格的な活動を行なっています。
私立学校の激戦区である関西にあって、奈良・大阪・兵庫といった他府県からの受験生が絶えないのは、やはりこうした魅力あってのことではないかと考えています。
―ありがとうございました。
⇒龍谷大学付属平安中学校・高等学校HP 取材日:2017年10月12日