卒塾生インタビュー
浜学園の卒塾生にお話しを伺う「卒塾生インタビュー」。今回は、現在灘校の3年生の、床次翔太さんと、橘一樹さんにお話しを伺いました。
-まず、灘校の校風について教えてください。
(橘さん) よく言われていることですが、校風が自由で、授業のカリキュラムも先生が決めておられるので自由度が高いと思います。 先生が持ち上がりで担当されるので、先生と生徒の距離が近いです。
(床次さん) 先生方は、フランクに接して下さるのですが実はすごい先生ばかり。灘の卒業生で、京大、東大出身という経歴の方も多いです。担当教科以外でも、何らかの肩書をもっておられたりと知識量が半端なくて。授業に関係ない内容でも、教科のことを質問するとほぼ完璧に答えてくれます。
-夏前まで、文藝同好会に所属されていたそうですね。入部されたきっかけを教えてください。
(床次さん) もともと、海外ファンタジーをずっと読んでいて、その分野の小説も書いていました。 当時読んでいたのは、「エラゴン」「バーティミアス」「ウォーリアーズ」「ランプの精」などで、1日1冊のペースで読んでいる時もありました。
灘校に入学して図書館に行ったのですが、海外の物語をまとめているコーナーがあって、そのコーナーの7割くらいは既に読んでいる本だったので自分でも驚きましたね。
(橘さん) 僕は、図書委員会に入っていたのですが、文化祭の展示を、文藝サークルと共同でしていたんですね。間近で見ていて面白そうだなと入部しましたが、入ったのが割と遅めで中3の頃でした。僕も本を読むのが好きで、自宅が遠方だったので通学時間を利用して、1日で1冊読むというような時期もありました。
-文藝サークルではどのような活動をされていましたか?
(床次さん) 年に3回、メンバーが、小説や詩などの作品を書いて冊子にしています。 また、句会をすることもあります。
みんなで、俳句を出し合い点数をつけるのですが、先生も参加していて、結構本気の句をだしてきます。先生がぶっちぎりで点を集め最優秀を獲得する時もあるんです(笑)。
-俳句の魅力について教えてください。
(床次さん) 17音に凝縮しているところでしょうか。やっぱり17音って短いんです。 語数が短いので、表現できる単語も少ないのですが、少ない言葉の組み合わせで、 言葉の向こう側にある背景を作りだすことができる。背景を創造する過程がとても楽しいですね。
(橘さん) 本当に17音は、すごく短くて普通に考えると何かを表現するのには不十分だと思います。 制約のある中で、情報を詰め込もうとすると破綻してしまうし、逆に情報が少なすぎると、ありふれて、つまらなくなってしまう。
また、表現する内容が、一般的な共通認識のないものだったり、突飛なものだと、背景の想起が難しくなるんです。そこをサークルメンバーや先生に、確認してもらっています。そのあたりの兼ね合いが難しいところでもあり、面白いところでもあります。
-お二人は、昨年開催された第22回「俳句甲子園」に出場されたそうですね。その時、詠まれた句を教えていただけますか。
- 棋界きってのタイトル戦。緊張と静寂が続く中、飛車の一音が高く鳴り響き長い勝負に決着がつく。その緊張感とは裏腹に、庭には蝶がひらひらと舞っている。大一番を終えた後にまた静寂が訪れる -
「蝶の昼」という言葉には、花壇や草原に蝶が飛んでいる「のどかで広い」というイメージがあります。これに、「緊張感があって狭い」ものをいれたらどうなるんだろう、という発想から、「将棋」を組み合わせました。二つが合わさると、将棋を指している横に庭があったり、それが日本家屋であったりというイマジネーションが湧き、そこからまた有名なタイトル戦が想起されると思うのです。
季語と違うものを合わせて状況を作ることを「取り合わせ」というのですが、「蝶」という季語と、「将棋」という全く違う2つのものを合わせることで、由緒ある棋戦という背景を浮かび上がらせました。
取り合わせの手法は、世界観を作りやすく、初心者も取り入れやすいテクニックといわれています。
原型は僕が作って、「きりりと高し」という言葉を橘くんが提案してくれました。 最初は、「駒の音高し」という句だったのですが、「きりり」という擬態語が、より空間的な広がりや、凜々しさ、場面の動きを醸し出しているように思います。
-夏の夜。海辺を歩いていて、捨てられた錆び付いた船が横たわっている。廃線を白く照らしている月の光。神秘的なその光は、役目を終え、油のにおいだけを放つ船を浄化しているようにも見える -
「夏の月」が兼題でしたが、これが大きなポイントで、 ただ「月」というと俳句の世界では、中秋の名月をさした「秋」になります。 そこに「春の」「夏の」をつけることで季節が決まってきます。
春の月のイメージは、ぼんやりとした優しい朧月。 秋は堂々たる中秋の名月。 夏は、光の白さに、神聖さや神秘性が感じられます。
そこに、船の心臓部であるエンジンとの情景がうまくかみ合った句ができたと思っています。
最初、「廃」という言葉を使った句を作りたい思い、廃ビル、廃井(はいせい)など廃がつく言葉を並べてみました。 もともと僕が作った句は、尾崎豊の歌のイメージで、「廃船のエンジン盗む夏の月」だったのですが、廃船のエンジンを盗んでも、何にも使えないね。ということになって、、 夏の夜の情景を表す表現に変更しました。
-朝、窓を開けると霧が立ちこめている。外の景色は何も見えないけれど、一羽の鳥の声だけが聞こえてくる。霧がフィルターとなって、鳥の本当の心、淋しい心が聞こえるようだ。-
この句は心を使ったところがポイントだと思っています。 通常、心情表現は、「楽しい」「淋しい」などで表すのですが、「心」って、感情を表す言葉としては抽象的です。 しかし、朝霧と一羽だけで鳴く鳥を表現することで、詠み手の淋しさを写しているかのような背景を醸し出すことができました。
朝の早い時間帯に、毛虫が葉っぱの上にのっていて、体をぐっと伸ばしているイメージです。
この句は、「早朝」につく助詞にこだわりがあって、「へ」と「に」とのニュアンスの違いを意識しています。 「早朝に」というと、「に」は、場所を示す助詞なので、時間帯が早朝を指す。早朝の”時間”になったというニュアンスです。
一方、「早朝へ」とすることで、方向感がつき、”空間的な広がり”ができます。その向こうには、朝一番の光や、涼しい風が吹いていたりとかという背景が目に浮かぶのです。
また、「早朝のべランダ」とすると、背景が限定的になるのですが、 「早朝」だけを用いることで、早朝にまつわる様々な背景、気配を感じてもらうことができるとも思いました。
毛虫の、ごつごつしている感じは「軀」という一文字で表現しました。 一般的な、「身体」や「体」には、ごつごつ感はないのですが、この字を用いることによって、ひだや毛、足の数、ボリュームなど、毛虫という生き物を近くで見ている臨場感も味わってもらえるのでは、と思います。
さらに、「軀」という字のつくりは、「区」の旧字体で、毛虫のからだが、ひだや、毛、足などさまざまなパーツの集合体であることも示唆しています。
同句は、第22回俳句甲子園で、優秀な句に与えられる「入選句」を受賞しました。
第23回俳句甲子園 全国高等学校選手権大会
- 正岡子規をはじめ、種田山頭火、高浜虚子、河東碧梧桐など、数々の俳人にゆかりのある町、松山。
- 1998年から、この地で高校生による「俳句甲子園」が開催されています。浜学園では、高校生への俳句の振興を目的とする趣旨に賛同し、俳句甲子園に協賛しています。
- 今年は、コロナの影響によりオンラインでの開催が決定。第23回俳句甲子園 全国高等学校選手権大会として、2020年8月23日(日)13:00~16:00に、Youtubeでライブ配信されます。
-床次さんと橘さんは、現在高校3年生。お二人とも大学受験へ向け猛勉強中とのこと。最後に、浜学園で勉強する後輩の皆さんにメッセージをお願いいたします。
(床次さん) 灘校の場合は、中学3年間がとってもゆるいんですね。 僕の時は、中学1年の時の春休みの宿題が、「お父さんお母さんのお手伝い」だったんです(笑)。先生から、「君たちは、今まで勉強ばかりしてきてお手伝いしていなかったので、家の手伝いをしなさい」と言われて。受験勉強はきついけれど、中学生になると、やりたいことや好きなことができるという楽しみが待っています。
灘校の場合は、卒業後に、官僚や医師になり、その中で何かしらの代表をしている方々って多いんですね。学校で友人との繋がりができると、将来変わってくるものがあるだろうなと思います。
(橘さん) そもそも、中学受験自体がゴールではないと思っていますが、 一つの目標に向かって努力する経験は、その後の人生に影響すると思っていますし、 頑張っていれば必ず自分に返ってくるものがあります。 浜学園での勉強はとても厳しかったし、今あの時と同じ量の勉強をしろと言われても、できる気がしないので(笑)、大学受験時には、いい意味での免疫がついているのではないでしょうか。
また、受験をすると、中学校で勉強する知識がつき、高校の数学や化学も早い段階で学ぶので、大学受験の時のアドバンテージもあると思います。
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