UTFR企画④:「視野を広く持ち、可能性を広げよう」UTFR設立者が小学生に伝えたいこと
難関大学の中でも、しばしば日本の最高学府とも称される東京大学。そこに在籍する学生は8割以上が男子、大半が高所得世帯の子どもで、首都圏の出身者がほとんどであるという現状があります。
UTFR(University of Tokyo Frontier Runners, 東京大学フロンティアランナーズ)は、そんな逆境を乗り越えて東大進学を果たした学生達からなる団体です。彼らは地方出身、継続的に東大生を輩出していない学校出身などの東大受験に不利な環境を乗り越え、成し遂げたいことや勉強法などを自らしっかり考え行動してきました。
今回お話を伺ったのはUTFRの設立者、東京大学教養学部4年の大野康晴さんです。大阪府内の私立校出身で、高校からは7年ぶり、現役では初の東大合格者となりました。あこがれと期待を持って東大に入学した大野さんが実際のキャンパスで感じたことは、UTFR設立の経緯につながっています。彼の受験体験記が、これから中学高校選びをする親子にとってより広い視野を持つきっかけとなれば幸いです。
子ども時代どう過ごしたか
「こういうふうに成長してほしい」という思想を持って何か特別な子育てやしつけをしてもらったということはなく、ごく普通の子どもとして育ちました。親は、こういう学校に進学してほしいといった明確な希望は持っていなかったし、僕が東大に行くなんて思ってもいなかったでしょう。ですが、昔から本は進んで買い与えてくれる環境だったので、読書の習慣を持っていたのはよかったことです。一人っ子で遊び相手がいなかったため、1人でいるときは親から買い与えてもらった本を読んで過ごしました。
やっていた習い事は、書道とピアノです。東大受験生は字が汚い人が結構多いのですが、読みやすい字が書けるのは勉強や試験では大切なことなので、書道はやってよかったと思います。また、書道を通して身についた、15分くらいの短い間に目の前のことにしっかりと集中するという習慣は、勉強だけでなく様々な場面で役に立っています。
中学高校時代から東大受験まで
地元の公立校は荒れているという噂を聞いていたため、中学受験を選びました。受験競争の激しくない地域だったので入試は易しく、入学後は学校内でも相対的には成績は優秀だったので、中学の先生方からも学習に打ち込めるよう配慮をしていただけました。なにより落ち着ける環境にいられたことはとても大きかったです。
東大を目指し始めたのは、中学時代自分にコンプレックスがあったこと、自分の成績を巡って友人と軋轢が生じたことがきっかけでした。勉強で一番になって、この悔しさを晴らしてやろう。そう考えた先に、自分の周りでは誰も目指さない“東大”を目標に掲げることにしました。高2までは塾には入っていなかったので、いろいろな質問を自分が納得するまで先生に聞き続け、とにかく疑問があれば解消するという姿勢で、自学で成績を伸ばしていきました。
高2からは受験のため塾に通い始めます。塾の講師は東大生だったのですが、初めて塾を訪れた時に間近で見た東大生は、「意外と普通の人」でした。しかし話をしてみると、とても賢くて面白い。灘校から理Ⅲという講師には、一緒に来ていた母も感銘を受けていました。オープンキャンパスに行った際に出会った東大生達も、誰もが勉強に真摯で議論に熱心な印象。中学生の頃「勉強で一番になりたい」という気持ちで目指し始めた東大でしたが、実際に東大生に会ったことで、期待とあこがれが膨らんでいきました。
伸び悩んでいた数学の成績が上がってきたのは、東大生講師との会話で得た気づきがきっかけでした。気づきというのは、「東大の問題を解くには“問題の本質を見る力”が必要である」ということ。もともと僕には、勉強の仕方というのをしっかり考える習慣がありませんでした。学校では目の前の課題を解けばいい評定が出るし、テストの点数も取れていました。効率のいい勉強の仕方というものを考えたことがなかったのです。しかし、東大に合格するにはそれだけでは足りません。親も学校の先生も教えてくれなかったし、東大生も直接的に教えてくれたのではなかったのですが、それは大きな気づきであり、一番の収穫でした。
学習管理アプリを使ったりしながら自ら勉強スケジュールを立て、試行錯誤する中で受験勉強に取り組んでいきました。合格発表の日、自分の受験番号を見つけた時は、嬉しいというより唖然とした気持ちでした。自分の受験は終わったんだなあと思ったこと、引っ越しのことや一緒に受験した予備校の友人のことばかりが心に浮かんできていたのを覚えています。
進学校と非(東大)進学校の違いは?
進学校出身者は、高校の時点で多様な経験をしてきていることに驚きました。クイズ大会やディベート大会に出場していたり、高校のプログラムで海外大学を訪問していたり、自分の高校では想像もつかなかったようなことばかりです。灘校から理Ⅲに合格した友人は、「どう頑張っても自分が勝てない人間がこの世にいると高校で知り得たのはよかった」と言っていました。非進学校や中堅校の中で成績が飛び抜けていた人は周囲に対して傲慢に陥ってしまうリスクが少なからずありますが、進学校の人たちはそういう気持ちは脱却済みで大学に入ってくるので、そのぶん大人だと感じます。
一方、非東大進学校から東大に来た人のいいところは、自分で情報を集めたり計画・戦略を立てたりしてきた経験があることです。東大受験を通してそういう経験ができるのは非東大進学校だからこそだし、自分自身もとても成長できたと思います。
我々の中には、社会的な差別や圧力と戦わなくてはならない人もいます。「女の子なんだから東大なんていく必要ないじゃない」と言われた知人もいます。しかしそんな逆境を逆手に、多くの東大生が知らない現状を見てきた上で自分は今後何をするか考えていけるというのは、我々の強みだと思います。周囲に仲間や先駆者がいない中、逆境と向き合いつつ東大を目指すのは難しいことですが、それでも僕たちUTFRは、自分次第でどんな学校からでも東大進学は可能であると提唱し、人生の選択の幅を切り開く手段を提示し続けていきたいと考えています。
小学生に伝えたいこと
まだ遠い未来の話でしょうが、みなさんの中には将来東大を目指すことになる人がいるかもしれません。東大は実際にいい環境だし、目指すに値する大学です。しかし同時に、いろいろな可能性を検討してみてください。僕は東大に強い憧れを持ちすぎていたために、京都大学や海外大学という選択肢が見えませんでした。僕が受験生だった頃よりも海外もずっと近いものになっているので、そのあたりも考えを巡らせてみてください。中学・高校時代は、自分がこれからどうなりたいのかをじっくり考えることのできる期間でもあります。これからいろいろな経験をし、考えを巡らせて、実りの多い学校生活を送ってください。
親御さんは、子どもの判断はぜひ尊重してあげてください。親の世代の成功感と子どもの世代の成功感は絶対にずれていて、だからこそ難しいと思うのですが、子供が何を考えているかちゃんと聞いた上でその子が思っているようにさせてあげて欲しいと思います。
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