
聖徳太子様が説いた「和の精神」を最重視
―まずは、御校の建学の精神についてお聞かせ願えますか。
今から約1,400年前、聖徳太子様が日本仏法最初の大寺として四天王寺を建立なさいました。その時太子様は、「四箇院」という4つの尊い事業を始められました。その中の1つが「敬田院」という教育事業です。当時の日本は、まだ国が安定せず乱れていました。そんな時代の中で太子様が、今後は仏教を基礎に国を造っていこう、そのためには教育が必要であるとお考えになって、「敬田院」を創設されたようです。四天王寺学園は今もなおその精神を受け継いでいます。太子様の教えの中で本校が最も重視しているのは、かの有名な十七条憲法の第一条で説かれている「和の精神」です。これは、全ての人を大切に扱い、尊敬し、慈しみの心を持ちなさいという教えです。具体的な教育理念としては、円満で深い人間性を持った女性を育てること、将来希望する世界で活躍できるような学力を養成すること、個性を十分伸長できる教育を行うこと、以上の3つを掲げています。

「忘己利他」と感謝の気持ちをもつ生徒の育成
―お聞かせいただいた教育理念に基づいて、具体的にはどのような生徒像の育成を目指されていますか。
仏教の教えの一つに、「忘己利他」というものがあります。これは自分のためではなく他人のために尽くす精神を意味しています。本校では、常にそのような精神と感謝の気持ちをもって周りの人を助けることができる女性を育てたいと考えています。この「忘己利他」の精神は、リーダーとして活躍するためにも欠かせないと思います。
進んで社会に貢献していく卒業生
―実際、御校の教育を受けて育った卒業生にはどのような方がいらっしゃいますか。
ある卒業生がしてくれた話が印象に残っています。彼女は医学部に進学したので、もちろん周りには頭のいい人がたくさんいると言っていました。ただ、全員がこれから医師になって実際に患者さんと向き合うのにふさわしい心を持っているかと考えると、そうとは思えないとも言っていました。その点で自分は、在学時に週1回の仏教の授業で「和の心」を6年間学んでいたので、自信をもって進むことができると話してくれました。仏教の教えを学ぶことの大切さが今になってよくわかるそうです。
医師として医療現場で活躍している卒業生に、山本佳奈さんという方がいます。彼女は被災後の南相馬市立総合病院に勤務して現地の人々に尽くす一方、日本の貧血に関する現状に問題意識を抱いているそうです。彼女は著書で、日本の貧血対策は不十分であること、貧血状態の女性が妊娠すると赤ちゃんに悪影響を及ぼすことを述べています。彼女は今、南相馬の人々の助けになろう、貧血の危険性を多くの女性に知らせようと身を粉にして社会に貢献しています。彼女もまた来校して在校生の前で講演をしてくれることになっています。
参議院議員の松川るいさんも本校の卒業生です。彼女は仕事の一環で、ヨーロッパの国々やインドなどに女性の活躍を視察しに行っているようです。今の日本は、国を挙げて女性の社会進出を支援していると言えます。
建学の精神や教育理念を前面に押し出せる
―私学の教育意義についてはどのようにお考えでしょうか。
やはり、建学の精神や教育理念を前面に押し出せることが一番の特徴といえると思います。本校の場合は仏教の心を持った、社会で活躍できる女性の育成を掲げています。そのシンボルとなっているのが勝鬘夫人(しょうまんぶにん)というインドの女性です。彼女は聖徳太子様が非常に敬慕した、聡明で凛とした方でした。そのような女性を1人でも多く社会に羽ばたかせていきたいと私たちは思っています。本校の母体である天王寺高等女学校が設立されたのは大正11年のことですが、当時はまだ女性が虐げられる男社会でした。そのような社会の風潮に縛られず、太子様が慕った勝鬘夫人を理想とした女性を今後の世の中のために育成していこうという理念から、本校の歴史は始まったのです。最近ではどちらかと言えば共学志向が高まってきていますが、本校はこれからも女子教育の理念を軸において、女子校として存続していきます。

女性に適した教育の提供・リーダーシップの育成ができる
―女子教育の長所は何であるとお考えでしょうか。
まず一つは、女の子に適した教育ができるという点です。よく言われる男らしさや女らしさといったものは、脳の発達に由来しています。大人になればあまりなくなるのですが、小学校高学年から高校2年生くらいまでは男女の間にかなりの性差があります。男の子の場合は、脳の中でも海馬や扁桃体といった原始的な部分が活発に活動します。一方で女の子の場合は、言語中枢などのある大脳皮質という部分が先に発達します。だからよく女の子が口達者であるのに対して、男の子は口より先に手が出てしまうなどと言われるのです。同様に、学習面で女の子は理科や数学が苦手とよく言われます。しかしこれは間違っています。アプローチの仕方次第で、女の子は理科も数学も十分得意とすることができます。男の子の場合は、質問するのが悔しくて、教えてもらった知識だけで可能な限り進めようとします。わからないところがあってもとりあえず先に進むので、進めていくうちに最初はわからなかったところがわかってくることもあります。対照的に、女の子の場合は、わからないところがあるとそこを理解してから進めようとするので、いったん立ち止まってしまいます。それに気づかず授業を進めてしまうと、後になってある地点以降全くわかっていないということが発覚しかねません。
女の子には、一つ一つ確実に理解させていくという方法が適しています。授業のスピードもあまり速すぎず、丁寧に進めていくのがよいです。できるだけ速く進めて復習の時間を多く取るというやり方もありますが、それは女子教育に適しているとは言えません。具体的には、例えば私の場合は、配布するプリントにヒントを載せておき、わからなくなった時だけ見るようにと指示しています。女の子は基本的に真面目な性格を持ち合わせているので、彼女たちに適した環境を与えてあげれば、基礎を固めながらぐんぐん能力を伸ばしていきます。そのような環境を提供し、女性の特徴をとらえた教育を行えることこそが女子校の利点と言えると思います。


英語教育とプレゼンテーション指導に注力
―2020年に大学入試の方式が変化することが話題ですが、御校では大学入試改革に向けての対応としてはどのようなことをなさっていますか。
最も力を入れているのは英語教育です。本校では、英語の4技能のうちリーディングとライティングの指導は以前から盛んで、得意としている生徒も多いです。ただ、より実用的なリスニングとスピーキングに関しては、苦手としている生徒も多いようです。この現状を改善するために本校では、ICTを使ったスピーキングの練習や、ネイティブの大学生と交流する「SLICEプログラム」などを提供しています。企業と連携して開発中のAIを使ったスピーキング教材は、方言の混じらない標準的な英語で対応してくれるので、汎用性の高い英語を学習することができます。また、会話の練習の相手が人間ではなく機械なので、正しく発音できず上手く伝わらないせいで何度も話しかけなければいけないことを申し訳なく思ったり、遠慮したりする必要がないところも魅力です。「SLICEプログラム」では、ハーバード大学の現役の学生が来校し、本校の生徒と英語で論理的に話す練習をしてくれます。このプログラムは、英語を話す基礎的な力を身につけるものではなく、むしろ英語をある程度話すことができる前提で、英語を使って論理的に話せるようになることを目標としています。このように、本校では英語の4技能をバランスよく身につけられるようさまざまな取り組みを行っています。これらは全て大学入試のみならず、グローバル化が進む社会に出たときに活躍するための下地になりうると思います。


―どうもありがとうございました。
⇒四天王寺高等学校・四天王寺中学校HP 取材日:2018年10月25日